ロックフィッシャー佐藤文紀

ロックフィッシャー
佐藤文紀
(さとうふみのり)
元祖・根魚ハンターとして、数々のIGFA世界記録及びJGFA日本記録を有し、「根魚釣りの専門家」として東北〜北海道を拠点に全国各地の根魚を追い続ける。
又、フラットフィッシュや大型トラウトの釣りにも造詣が深い。
2011年、自らがプロデュースするブランド、PRO’S ONEを立ち上げた。
NPO法人ジャパンゲームフィッシュ協会(JGFA)評議員

キャッチアンドリリースのお願い

豊かな自然とグッドコンディションの魚を守るため、必要以上のキープは慎み、又、産卵前の個体やこれから大きく成長していく若魚は、ぜひともリリースを心掛けましょう。
釣り場環境への負担を最小限に抑えることで、次世代に渡り末永く楽しめることを願って―。

自然の神様とヤマメが結んだ桜の掟。

岩手県から宮城県へと縦断する東北随一の大河は、弓弭の泉(ゆはずのいずみ)を水源を持ち、太平洋に注ぐまでにおおよそ250kmの流れ。

⑤

新緑に覆われたラグーンを掻き分けること、目に入るその清流は河口から200km以上先の本流の中流域。

カワセミが紺碧の羽を休める瀬の音に耳をすまし、静寂に埋もれるわずかな動きを察する。

⑥

北国の初夏、一貫する冷涼な流れ。

この早い瀬の連なりが、今回の舞台だ。

 

 

『川歩きを楽しむ本』として人気のRIVER-WALK誌の取材に行ってきました。

そうそう!あの釣りクマが目印のあの本です!

現在Vol.1 Vol.2の2冊が絶賛発売中で、今回の取材は第3号、Vol.3の取材でした。

 

「釣れない確率は9割で、釣れる確率は1割でしょうか。」

本流の初夏の清流サクラマスー。

恐れ多くも編集長ご本人を目の前にして、事(取材)の前に言い放つ。

たった1割の可能性に、己の釣りをすべてを出し切るという信頼を込めての約束の意味の言葉だ。

サクラマスを追い続けること25年、根魚釣り同様の熱量でこの釣りもまたサクラマスの海とサクラマスの川で積み重ねた修練を、いっそのことぶつけてみようという前向きな考え。

 

 

重ねるようだが、情熱はいつも報われない。

これでもか、というくらい打ちのめされるかもしれない。

が、これぐらいの覚悟なくして、かの存在の前に立てやしないというのも私は知っている。

サクラマスとはそんな魚だ。

釣技以前に、志あくまでも高く。

いつもそこに釣竿ひとつで向き合う「魚との関係性」に醍醐味を感じているから、長く釣りを続けられてこられた。

 

2018年6月。

⑥ー2

その時はやってきた。

太く、力のある瀬に閃光が走る。

 

 

絶対に君を離すものか。

一本の釣り糸で結ばれたこの運命、俺は必ず引き寄せてみせる。

 

 

 

 

その大きな銀影は、瞳の中を泳いでいた。

⑦

炸裂する歓喜は心の中、あくまでも冷静を装う。

その化粧は、淡い桜色と緑色の彩りがシルバーメタリックの下に秋を待っていた。

憧れ、恋焦がれた貴女の目前。

今だけは特別に、かっこつけさせておくれ。

 

 

 

考えてもみてほしい。

少し前までオホーツク海を泳いでいた魚が、水無月の冒頭にはみちのくの清流にたどり着いているという摩訶不思議を。

北海道沖を通り、青森県沖を通り、岩手県沖を通り、宮城県沖から故郷の川の匂いを嗅ぎ付け河口から川に入り遡上。

そしてまた岩手県内陸部に位置する上流にまでUの字を描くように折り返して突き進んでいく、というこの現実を。

生まれた場所はこれから先の未来、終焉の地にもなるこの魚の生き方に貴方は何を想い重ねようものか。

 

 

 

遥か昔、山に棲むヤマメは選択肢を委ねられた。

サクラマスとなった者には故郷に居残った者以上に大きく育つ資質が授けられた。

それはそれは、眩いほどの美しさで。

圧倒的な存在感を示す姿へ変貌を遂げることが許されたのだ。

 

ときはめぐりー。

わずか25年前、少年だった俺はそんな君に憧れの気持ちを抱いてしまったんだ。

 

 

 

しかし、運命とは過酷なもの。

サクラマスへの昇華と引き換えに命の短縮という宿命も、ヤマメは背負わなければならなかった。

古(いにしえ)の神は例外を許さなかった。

それが遥か昔、【自然の神様とヤマメが結んだ桜の掟(おきて)】なのだ。

 

あまりにも高貴で、あまりにも切ないその物語に、私はただただ傍観者(ぼうかんしゃ)としてしか関わることができない。

だから、せめて書き手としてサクラマスという魚の「命の使い方」の切実さをしかと伝えたいという衝動に駆られ、釣りを通した形でサクラマスのことをよく知らない釣り愛好家達にも、豊かなイメージを膨らませてもらえるよう写真で毎年、大切に紹介しているのはそのため。

 

 

今日もまたあなたの近くの海や川でサクラマスたちは生きている。

残された時間には限りがある。

酷な話、余命とも表現できるそれは散り際の美しさを、婚姻色という桜色で体現する。

「桜の咲く時期に故郷の川に帰ってくる鱒」という前向きな意味の影には、桜色の婚姻色という“死に化粧”を纏う鱒という極限までの切なさが私の心をどこまでも駆り立ててならない。

日照りの渇水や雨の濁流に巻き込まれ、それでも今日もまた上流を目指して泳いでいく桜鱒たちがここに存在しているというこの奇跡を、皆さんにもっと知っていただけたら純粋にうれしいな、とー。

⑧

道の奥=みちのくを貫く早瀬で迎えた旅の始まりと終わり。

川歩きを楽しむ本「RIVER-WALK」誌が2015年から追い続けた北の上の物語。

 

弓弭の泉(ゆはずのいずみ)から流れ出た雫はやがて大きな流れとなり、太平洋を目指す。

それが奥州・岩手県は北上川。

完結の地で出会った水の旅人の貴女。

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貴女の名は……サクラマス!!