ロックフィッシャー佐藤文紀

ロックフィッシャー
佐藤文紀
(さとうふみのり)
元祖・根魚ハンターとして、数々のIGFA世界記録及びJGFA日本記録を有し、「根魚釣りの専門家」として東北〜北海道を拠点に全国各地の根魚を追い続ける。
又、フラットフィッシュや大型トラウトの釣りにも造詣が深い。
2011年、自らがプロデュースするブランド、PRO’S ONEを立ち上げた。
NPO法人ジャパンゲームフィッシュ協会(JGFA)評議員

キャッチアンドリリースのお願い

豊かな自然とグッドコンディションの魚を守るため、必要以上のキープは慎み、又、産卵前の個体やこれから大きく成長していく若魚は、ぜひともリリースを心掛けましょう。
釣り場環境への負担を最小限に抑えることで、次世代に渡り末永く楽しめることを願って―。

残雪の名所と古き名作ルアー

3月初め、道内滞在中にわずかながらの時間ながら久々に訪れたチキウ岬(※地球岬とも表記)。

北海道室蘭のチキウ岬。チキウ岬は北海道室蘭市にある大きな岬で、ご当地では珍しい荒々しい磯場にもなっている。

室蘭と言えば、言わずと知れた道内を代表するロックフィッシュゲームのメッカの一つ。

 

この海には根魚供給の“その根源”とも言える上記の磯場と私達釣り人を楽しませてくれる素晴らしいポテンシャルを持つ沖堤や港があるため、エサ釣り~ルアー釣りに至るまで幅広いジャンル・年齢層の釣り愛好家達が訪れる場所として広く知られている。

天気の良い日にはクジラやイルカが見えることもあるそうだ。アイナメ・クロソイ・エゾメバル(ガヤ)を筆頭にマゾイ(キツネメバル)や更には時々シマゾイにウサギアイナメといった希少種の釣果も聞かれる。その一方でカレイやカジカ狙いの投げ釣り師も多い。

 

いずれにしても、手軽に沖堤へ渡れる渡船システムが確立されている釣り場としては、釣り人にとってはありがたい限りだ。

本来はチキウ岬だが、当て字でもある地球岬という表記もずいぶんと浸透している。日本海側や津軽海峡側とは異なり、砂浜と港湾部の繰り返しの地形が続く北海道太平洋側においては、このチキウ岬のような局地的な磯場は根魚達にとってはまたとない安住地となっている。この磯場が健全である限り、室蘭という海に暮らす根魚達は将来長きに渡っても有望であろう。事実、ここチキウ岬周辺の磯周りでは60cmを超えるアイナメでさえそう珍しいものではなく、市立室蘭水族館の水槽には60cmを超えるアイナメが普通に展示されているところも凄い。中には明らかに65cmに達している個体もいて、この場所ならばロクマルどころか、実際に釣れるかどうかは別問題としても「ナナマル」の存在さえ現実味を帯びるものだ。

しかし、この地を訪れた方であればご存じのように、チキウ岬と隣接するトッカリショには「立ち入り禁止」の看板が立てられており、基本的には入磯出来ない(どこまでが立ち入り禁止区域でどこからが許されるものかの判断が非常に難しいのだ)。私も旧来よりこの磯で思う存分釣りが出来たら、どれだけ凄い釣りが出来るのやら…と考えたことは数知れずだが、入りたくても入れない場所、つまり手を出せない竿抜けの場所があるからこそ、このご時世においても“私達の夢”が今も尚そこにあり、共有の財産として守られてきている。チキウ岬と隣接するトッカリショ。ここの地形も素晴らしく良い。

いずれにしても、くれぐれもルールを守って釣りを楽しみましょう。

ちなみにこの場所、遊漁船に乗ってナギの良い日には海からなら存分にこの磯を撃つことが可能なので、ベイエリアがその大半を占める道内太平洋側のロックフィッシュフィールドにおいて三陸沿岸のような豪快な磯撃ちスタイルを堪能したい方は、ボートロックでチャレンジしてみるのも良いだろう。

 

話は変わって、今回の滞在中はその季節柄、オーシャントラウトの話題で持ちきりだった。海アメ・海サクラは勿論のこと、北海道ではシロザケ(チャムサーモン)、カラフトマス(ピンクサーモン)、海イトウ(海と川を行ったり来たりしているイトウのこと)、数は限りなく少ないもののスチールヘッド(ニジマスの降海型)やシートラウト(ブラウントラウトの降海型)、ドリーバーデン(オショロコマの降海型)だって存在している。そんな魅力溢れるオーシャントラウトシーンにおける今はなき古き名作ルアーと今旅では偶然再会することが出来た。知っている人は知っている、あの「トビス」だ。

ジェンセン社・トビス。この古き名作とまた出会えるとは感激モノだった。トビスはジェンセン社(※日本のサクラマス創世期から今日まで多くのトラウティストに愛用されているクロコダイルスプーンで有名なルーハージェンセン社とは異なる)から発売されていたスプーンとメタルジグの中間的要素を持つルアーで、個人的にはスプーン寄りのメタルジグ=スプーンジグというカテゴリーとして認識している。今の若い人達はこのルアーの存在自体を知らない人が多いことと思うが、もし知っているとしたら相当な通である。

よって、通常このルアーを知っている方、使ったことのある方はおそらく40歳以上の海アメ・海サクラ、そしてヒラメ好きアングラーの方だろう。

私もかつて大学時代に釣り仲間の先輩が実家に帰省した際に地元の古い釣具屋さんの片隅にホコリを被ったこのルアーが2つあるのを見つけ、「古くさいけど、なんか面白そうだな…」という軽いノリで購入したらしいのだが、そのうちの1つを私にくれたのがトビスとの出会いだった。

あれはもう10年近く前になるが、季節はちょうど桜の咲く前。私の地元である宮城県の北上川下流域にはサクラマスが遡上し、連日多くの釣り人が立ち並んでウィローリーフ型のスプーンをもくもくと投げ倒し苦戦している最中、私がこのルアーを使ってみたところ行くたびに良い釣果に恵まれたことで「このルアーには絶対何かあるな…」という大きな魅力と確信を得るに至った。特にフォーリング時の沈下角度と微妙な痙攣アクションは絶妙の一言に尽きる。なんぶん1個しかないので、もし引っ掛けたら後がない。根がかりしてルアーを失うのが怖いがために、着水後は上からのカウントダウンで中層を引いてくる使い方がほとんどだったが、トビスのアクションはメロウド(コウナゴ)の泳ぎに近く、汽水域でもあるこのフィールドにおいては海から遡上して間もないフレッシュランのサクラマス達の本能を激しく揺さぶったに違いない。歴史に刻まれた実績は今も色あせることはない。

廃盤品につき現在は入手不可能なトビスだが、この3月の訪道中に海サクラ・海アメ狙いのフィールドでご一緒させて頂いたエキスパートの方とお話した際、たまたまトビスの話題になり、ありがたいことに金・銀・赤・青の秘蔵品の未開封状態のトビスを4個分けていただいた。そのうちの1個(写真の青色)は、きっと近い将来、日本のサクラマス界を牽引していくであろう大切な釣友に先日託した(無くさないように!)。

いずれにしても、この懐かしき名作ルアーと再び出会えるとは思っても見なかっただけに心が高鳴ったのも事実。

 

このルアーを2012年の現在、東北屈指の大河・北上川水系下流域で投げる者はおそらく私くらいなものだろう。トビスというルアーは時代背景を抜きにしても、本州河川では元々馴染みが薄いはずだったので、きっとその存在を知らない人がほとんどかもしれない。でも、考えてみてほしい。北上川水系に遡上するサクラマスの群れがまだ海にいる時、彼女たちが口にしているもの(捕食しているエサ)にコウナゴの存在があることを、あなたはどれほど知っているだろうか―。

考え方、見方を一つ変えれば、海サクラの延長線上にあると言っても過言ではない当地特有のサクラマス・フィールドにおいて、このルアーがもたらす効果は軽視出来ないものがある。貴重なルアーのため根がかりでのロストは今でもやはり怖いが(笑)、投げればきっと相応の答えが戻ってくることを、かつての経験上、私は身を持って知っている。

いつまでも変わらぬ力強く太い流れ。北上の大河にこの春も海からの使者がやってきた。

 

 

 

 

 

 

 

間もなく満開の桜が舞う春の川辺で、古き名作を携えて繰り出す、思い出めぐりの大鱒釣り。

そんな余韻に浸りたい躍動の季節が今年も到来した。