ロックフィッシャー佐藤文紀

ロックフィッシャー
佐藤文紀
(さとうふみのり)
元祖・根魚ハンターとして、数々のIGFA世界記録及びJGFA日本記録を有し、「根魚釣りの専門家」として東北〜北海道を拠点に全国各地の根魚を追い続ける。
又、フラットフィッシュや大型トラウトの釣りにも造詣が深い。
2011年、自らがプロデュースするブランド、PRO’S ONEを立ち上げた。

キャッチアンドリリースのお願い

豊かな自然とグッドコンディションの魚を守るため、必要以上のキープは慎み、又、産卵前の個体やこれから大きく成長していく若魚は、ぜひともリリースを心掛けましょう。
釣り場環境への負担を最小限に抑えることで、次世代に渡り末永く楽しめることを願って―。

希望の花、ひらく時。

4月15日、仙台の桜が満開になったと報じられた。追って、石巻の桜も開花し出し、天候さえ回復すれば今週末にでも満開を迎えそうだ。釣りビジョンモバイルサイト「佐藤文紀コラム」読者の方であれば、昨春のコラムで紹介した仙台市「榴ヶ岡公園」と大河原町「一目千本桜」についての記事をご記憶の方も多いことだろう。共に宮城県を代表する桜の名所であるが、今回は無念にも両名所共に足を運べない状態なのが誠に残念。震災以降、毎日朝から日没まで後片付けに追われる日々であるが、毎日同じ事の繰り返し作業もいよいよ辛くなってきた先日、所要のついでに石巻の桜の名所の一つである「日和山公園」を久し振りに訪れてみた。 

―3日前。訪れた当日はあいにくの天候ということもあり、人は少なかったが、この公園の眼下からは旧北上川が海に注ぐまでの過程を一望に目にすることが出来る。海側に目を向ければ左に牡鹿半島や田代島。右は松島の方まで広く見渡すことが出来、当地では言わずと知れた憩いの場所。しかし今年は違った。雨に濡れながらも五歩咲き~八分咲きの桜が間もなく満開の時を迎えようとする一方でその眼下に広がる光景は、先の大津波によって破壊されたかつての名残惜しい街並みの姿があった。

日和山より眼下を望む                 

 

 

 

 

 

無惨に変わり果てたその姿は、一瞬、ここがどこの地であるさえ分からなくなるほどのもので、いまだ行方の知らない方々の捜索と共に瓦礫撤去のために稼動している複数の重機音が、雨の日和山を包んでいた―。

つい先日、私の親戚の一人もこの眼下に広がる瓦礫の中から、変わり果てた姿で収容された。

自衛隊をはじめとする方々の懸命な捜索活動が以前続く中、その想いむなしく発見に至らない場合も多い状況にあって、残念な形ではあるがその姿だけでも無事収容されただけで私にとっては、もう…十分だった。 私は改めて手を合わせ、目をつぶった。いや、この光景を目にするに際し、手を合わせずにはいられなかったというのが本当のところ。

日和山に立ち、北上川を見つめる川村孫兵衛像岩手県を水源に宮城県で海に注ぐ東北屈指の大河・北上川はかつて仙台藩の藩主・伊達政宗の命により川村孫兵衛の尽力によって治水され、今日に至っているとされている。その功績を称えた彼の像がこの山には立てられている。旧来から多くの自然の恵みを、人々の営みを育んできたこの北上川にあの日突如押し寄せ、川を遡上しながら街を容赦なく呑み込んでいったドス黒い濁流をもし彼が目にしたとしたら、この惨状を前にいったい何を想うのだろうか…。

 

冬が終焉を告げようとしつつも、まだ肌身に残る冷雨に濡れる川村孫兵衛像とそれを囲むように立つ桜の木々は、かつてない悲壮感をただただ受け止めるだけで精一杯なのではないかとさえ思えてきた。それでもこれから花、開こうとしている一輪の桜のつぼみには“生命の強かさ”があった。希望の花、ひらく時。この淡く小さな希望が、やがて大きな胎動となり再びこの地に穏やかな日常が戻ることを心に、今、私達・被災地も新たな一歩を踏み出さなければならない。

心に残る闇を抜け出せば、明るい春はもうすぐそこにある。

少なくとも私は、そう信じることにしよう。